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力武一郎/2003年5月5日講演より

依存症をケアする

みなさん、こんにちは。高い所から失礼致します。只今ご紹介頂きました力武です。今日はですね、依存症の方もそのご家族の方もいらっしゃる中で私がお話をさせて頂くというのは、本当に針の筵の上にいるような気持ちですけれども、30分というお時間を頂きましたのでその中でお話をさせて頂きます。

少し私の生い立ちというものについてお話をさせて頂きます。私は大分県で2店舗のパチンコ店を経営しておりますが、うちの会社は映画館から始まりまして、九州の各県に映画館を作ってきたわけですけれども、私の祖父は、大牟田の三池炭鉱で炭鉱夫をしておりまして、炭鉱で貯めたお金で「これからは娯楽の時代だ」ということで大牟田に小さな劇場を作りました。年輩の方はご存知だと思うのですが、空前の日活ブームというのがありまして、石原裕次郎さんだとか赤木圭一郎さんだとかキラ星のごとくスターが出まして、それで会社が軌道に乗ったということです。現在もシネコンの経営をしておりますけど、映画って売上げが安定しないのです。宮崎駿さんの作品などはヒットが見込めるのですが、それ以外の時というのはなかなか経費もかかりますし、そんな中で売上げの安定を計ろうという事で私の祖父がパチンコ店を始めました。その当時のパチンコっていいますと、女性の方は出入りできないほどで、ほとんどの店がヤクザにみかじめ料を払っていましたが、私の祖父はヤクザが大嫌いだったものですから、みかじめ料を払わなかったから、チンピラが店で嫌がらせをしてうちの親父は本当にひどい状況の中で仕事をしていたのです。私も業界に入って20年近くなりますが、入った当時というのは私自身がホールの中でタバコを吸いながら働いていたような状況で、パチンコ店の従業員にはロクな奴はいないというふうに言われていた時代です。

最近はすごく接客もよくなりまして、女性の方でも安心して入れるようになったことで、かえって女性の依存症の方が増えたのではないかと思っております。実際、主婦の方でパチンコにはまっている方はたくさんいらっしゃって、私どもの会員様でダイレクトメールの発送が“不可”という方、郵送しないでくれという方が多くて、やっぱり旦那さんに内緒でパチンコをしているわけですね。それで家のお金に手をつけちゃって、家計をやりくりするためにサラ金から借りているのかもしれません。流行っている店の周りでは違法金融業者の貼り紙がたくさんあります。うちは夜中にそれをはがして廻っているのですけど、はがしても貼られの、はがしても貼られのイタチごっこなのです。そういう心苦しさの中で商いをさせて頂いております。

ギャンブル依存症の取り組みを始めたきっかけについてお話します。7年前より店内にご意見箱というものを設置しておりまして、ご意見に対して私が掲示板でお答えするというような事をやっております。パチンコをする人の7割が遠隔操作をはじめ何らかの不正をしていると思っていますので、そういう事に関してのご意見が多いのですが、そんな中で私どもの店にハガキがきました。“CPの気持ち”というお答えをまとめた小冊子を作っておりまして、その中の2冊目に掲載したのでちょっと読ませて頂きます。
『苦しい借金生活から小さな幸せを取り戻したい。1日で年金をとられた。今日から水で食事、こんな苦しい、切ないひどい生活だ。毎日何万円も取られる。借金もする。楽しくない。苦しい。社会から追放する運動をはじめたい。泣いている市民を救済して、小さな幸せを取り戻したい。貧しい人たちから金を取って経営者は笑ってよい生活をしているのでしょう。』

という葉書きが殴り書きのような文字で来ました。それに対して私は、掲示板にてお答えをしました。

『お客様のお葉書きを拝見してせつない気持ちになりました。私たちセントラルパークは、お客様に日常生活の中での適度な楽しみとしてパチンコという娯楽を提供することを目的としております。
お客様のように苦しい生活をされたり、借金をしてまでパチンコをしてほしいとはけして思っておりません。社会から追放するとありますが、これからもパチンコという産業事体はなくならないでしょう。
しかし、パチンコ業界にあるさまざまな問題を内側から改善していくことは私たちの責務であると考えています。
例えば、勝ち負けが激しすぎる現在のCR機の性能をもっとマイルドにできないだろうか。高額なパチンコ台がもっと安価にならないだろうか。(パチンコの機械は1台が20万円前後、スロットの機械は1台35万円前後します)もっと安くなれば、その分出玉でお客様に還元できます。
CPは脱税を含めあらゆる不正を行っていないことをお客様にお約束していますが、全国的に見れば不正を行っているホールは皆無とは言えないと思います。私たちはパチンコがもっとファンの皆様に愛される娯楽となれるよう努力していきたいと思っております。
最後に、私の生活はけして派手なものでも華美なものでもありません。皆様と同じように、最近の少年達の凶悪犯罪に眉をひそめ、毎日の些細な出来事に一喜一憂し、家族の幸せを願う気持ちに何ら変わりありません。貴重なご意見誠にありがとうございました。』
という返事を、平成12年にいたしました。ギャンブル依存症のことをよく知っていくと“家族の幸せを願う気持ちに何ら変わりはありません”っていう言葉が陳腐だなぁと今読んで思います。依存症はもうトランス状態ですから家族の事は関係ないですね。

でもこの時は、お客様と信頼関係を築きたいという想いで書いたのです。それからすぐこの方から「あんた、偽善者だなぁ、思ってもないことをよくスラスラと書けるな」というハガキが来まして、これは信頼関係を築くどうのではなくて、もっと根本的な問題だと思いました。いろいろ調べていくうちにワンデーポートさんと出会いまして、中村さんとお話させて頂いたのが2年半前、ワンデーポートを立ち上げて半年くらいの時だと思います。それから何をやろうかという事になったのですけど、とりあえずパチンコ業界の人に現状を知ってもらわないと何も始まらないという事で、大分県ギャンブル依存症のセミナーを開催させて頂きました。パチンコ店の店長さんとかオーナーさんが集まってお話を聞いて頂きました。その時は、中村さんと岩崎メンタルクリニックの岩崎先生にお越しいただいて、「これからのパチンコ業界を考える」ということでセミナーを開催しました。117名が参加しまして、今日もパチンコ業界誌の方々がいっらしゃっていますけど、そこで大きく取り上げて頂いたのです。ここに記事がありますが、これは中村さんの記事ですね。『今でも好き。でもやらない。ギャンブル依存症をケアするワンデーポートの取り組み』と、これはアミューズメントジャパンさんから4ページにわたって取り上げて頂きました。また岩崎先生もこういう巻頭インタビューという形で、『ギャンブル依存症に対する社会的責任』ということで、パチンコ業界への提言として、アミューズメントジャパンさんから特集を組んで頂きました。これも4ページですね。これはグリーンベルトさんですけど、『大分県青年部がギャンブル依存症セミナーを開催した。広がるか、負の側面への取り組み』ということで取り上げて頂きました。大分県に続いて鹿児島県でもパチンコ団体が主催する2回目のセミナーということで開催しました。この時は300名近くの方々にお越し頂きまして、鹿児島って公営ギャンブルがないので、その分パチンコ店っていうのがすごく多くて、その位の人数になったんです。そこでまた中村さんと岩崎先生にお話を頂きました。今私は、九遊連青年部という九州のパチンコ団体で青年部の副部会長というのをやらせて頂いておりますが、パチンコ店の中にはですね、この話に拒否反応を起こされる方が多くて、アレルギーみたいなものですね、「なんでそんな事するんだ、お前バカじゃねぇーか。」みたいな感じで、活動を始めた2年半位前は、「もうあいつに近づくな。宗教じゃねぇーか。」みたいな、ほんとそういう状態です。「そんなのは自己責任だから、個人の勝手で関係ないじゃないか。」っていう同業者が多かったですね。それが大分県でセミナーを開催して実際に話しを聞いていただいた頃からですね、徐々に私の話しに賛同してくれる方が増えてきまして、九遊連の青年部会の仲間が、この問題に真剣に取り組んでいこうということで活動を始めています。前回、福岡でのワンデーポートフォーラムの時も青年部の仲間7人と参加しまして、仲間の話(ワンデーポートの)を聞いてくれました。その時に親組合に出したこの活動の趣旨というのがあります。ちょっと読ませて頂きます。
『社会貢献委員会の活動は、私たちパチンコ業界の存在意義を問うものであります。今後、社会とどう関わっていくべきか、もちろんパチンコファン以外の方々からも認知される業界でなければなりませんが、まず私たちは自らの足元を固めなければなりません。経済学者ピーター・ドラッカーは近著の中で“次の社会は買い手市場社会である”と述べています。雪印問題を例に挙げるべくもなく、あらゆる業界が経営者倫理、企業モラルを問われています。それはまさに次の時代に移行するための淘汰の時代といえるかもしれません。今社会問題化しつつあるスロット問題に限らず、私たち業界はエンドユーザー無視の営業を続けてきました。1日で100万円も出るパチスロは、どう考えても社会常識から逸脱しています。』

これみなさん、びっくりされるかもしれませんけど、今パチスロっていうのは、当たり前のルートで検査を受けてきた機械が、1日100万円出るのです。それはスロットしている方はご存知だと思うのですがミリオン・ゴットという機械で、名前自体が神の名をつけるとはふざけた名前ですが、ミリオン・ゴットとアラジンという機械はですね、運がよければ1日100万円出るという状況で、週刊誌でも盛んに取り上げられていますので、撤去も含めてなんとかしなくてはいけないと業界もやっと乗り出したところです。私が心苦しいというか、みなさんに大変申し訳ないのは、私は競争原理の中で生きておりますので、隣の店にミリオン・ゴットとアラジンが入ったら全部お客様をもっていかれます。私の店も、こういう活動をしていても導入せざるをえない。入れなければ全部お客様をもっていかれて私の店はつぶれます。そういう状態の中で商いをしている心苦しさというか、相反する自己矛盾みたいなものを感じています。それが現在の私です。続けて読ませて頂きます。

『最近、日遊協が99年から進めてきましたパチンコ遊技と依存に関する最終報告書が発表されました。それによりますと自分は依存症ではと自問自答しながらパチンコをしている人が18歳以上人口の約1.6%、164万6千人となっています。恐ろしい数字です。』

この数字はアメリカでは、18歳以上人口のおそらく2%から3%が依存症ではないかと言われていて、アンケートの方法もいい加減なところがあって、信憑性はどうかなって言われていたのですが、今回、日遊協が実際アンケート調査を行って、164万人。中村さんとも話していることですが、ギャンブル依存症者の7割以上はおそらくパチンコ依存症なのですね。それから考えますと18歳以上の2%弱、164万人がギャンブル依存症というのは、アメリカとの調査とも合致してすごく信憑性が高い数字だなぁと私は思っています。
『ギャンブル依存症者の多くは身近なパチンコから入り、やがてギャンブル性の高いポーカーゲームや競馬に流れている動向を考えますと、公営ギャンブルの責任問題はさておき、私たちパチンコ業界が率先して取り組むべき問題であります。もちろんあらゆる業界に依存症は存在します。しかし多数の依存症者を自己責任という言葉で簡単に切り捨てて良いのでしょうか。今パチンコ店の周辺では違法金融業者の看板が無数に貼られています。これが健全な娯楽と言えるのでしょうか。この問題に勇気をもって取り組んでこそ本物の産業としてのパチンコ業界の未来があると確信しております。」
(終わり)

こういう文章を親組合のほうに提出しました。その後の広がりはですね、日遊協さんと全日遊連という私どもの会というのが大きく二つありまして、それに同友会さんだとかチェーンストア協会さんとかいろんな団体があるのですが、そのうちの一つ日遊協さんがこういうアンケート調査をされて取り組んでおられます。

チェーンストア協会さん、これはダイナムさんという日本で一番大きなパチンコ店が入っている団体ですけれども、そこはギャンブル依存症についての相談窓口を今後作っていきたいということを宣誓されております。そして都遊連青年部会。東京都の遊技団体の青年部会が今年一年かけて調査を行った後に、来年から何ができるか本格的に取り組みを開始するということになっております。

もう一方の青年部では、関西の三都青年部会ですね、京都、大阪、兵庫の青年部会が4月22日にホテルグランピア大阪で合同セミナーを開催しました。早稲田大学の加藤教授による「中毒の心理」と題する講演を行いました。ということで少しづつではありますが、広がりをみせてきております。

今まで私の店でやっていた取り組みは、みなさまのお手元の資料にありますように「パチンコに勝つコツ」というPOPがあります。これは、依存症問題を知る前になんとかしなくてはいけないということで、パチンコに勝つには、はまって熱くなってはダメだよ、大負けしたらダメですよと、そういうことを書いて貼り出していました。これは今ワンデーポートさんのPOPに替わっております。そして裏面に刷ってありますのが、私どものチラシです。毎週入れ替えをしていますので、だいたい1回につき6万7千枚位のチラシをまいております。その裏面に月1回、メッセージを出しております。

これはどいういうものかといいますと、私が『パチンコ店社長が教える裏のーこれでOK!パチンコ必勝法』という小冊子を書きまして、それをご来店された方にカウンターでもらえますよという案内なのですね。これは今パチンコをやめている方には目に毒なことがいっぱい書いてありまして、パチンコ店経営者が裏の裏まで教えるという、すごくキャッチなタイトルをつけまして、こういう事をやっております。実際、興味をひくものでないと皆さん読んでいただけませんので、こういう題名をつけておりますが、中身はギャンブルは熱くなったら負けだよとか、投資金額を決めて打ってくださいねとか、のめり込みをおさめるような事を書いております。この小冊子の裏には、ギャンブル依存症にご注意くださいう事でワンデーポートの電話番号も掲示してあります。

もう1つ取り組みとして私どもの店で、非常にのめり込んでいるという人を見たら、声掛けをするということをやっておりまして、見ていると分かるのですね。感情の起伏が激しくて、勝っている時はスタッフに「ありがとう!」とか言っているけど、負けている時は目の敵にして、「お前寄るな!」っていう感じですね、そういう感情の起伏の激しい方を見てですね、冷静な時に「ちょっと○○さん、最近使い過ぎじゃないですか?もうちょっと間隔を空けられたらいかがですか?」という声掛けをやっているのですが、あんまりしつこくやると隣の店に行っちゃいますから、何にもならないのですね。これは本当に全体で取り組まないとどうしようもない事だなぁと痛感しております。
今後の取り組みについてなんですけど、私ども九遊連青年部は、「3つの柱」を中心に活動しておりまして、まず1つは、ワンデーポートさんのPOPを店名に貼って下さいという呼びかけをやっております。ワンデーポートのPOPは“ギャンブル依存症は正真正銘の病気です”というタイトルですが、ちょっと抵抗がありまして、なかなか貼ってくれるホールが広がっていかないので今は“パチンコは「適度に」楽しむ遊びです。あなたはギャンブル依存症ではありませんか?“というソフトにしたものを掲示しております。これを貼りだしてうちの店は2年位たちます。全国のパチンコ店に貼り出すと、相当数のギャンブル依存症の方を救えるのではないかと思っております。

もう1つがワンデーポートさんへの献金活動というものをやっておりまして、ワンデーポート通信が毎月送られてきますけど、その裏に献金者の名前が書いてあります。私が所属する大分県の遊技組合と九遊連青年部が、毎月献金活動を行っております。九遊連の仲間を中心として献金をするところが、徐々にではありますが増えてまいりました。

もう1つの柱が、先ほどご案内したように各県で依存症のセミナーを開こうということで、大分県と鹿児島県が先ほどご説明したようにすでに開催しておりますが、是非、九州各県で開いてほしいなぁと思って、一生懸命声かけをしているんですけど、やっぱり反対意見が多くて、なかなか保守的な方は受け入れてくれなくて苦労しております。私はちょっと急がなくてはならないなぁと思うのが、今年に入って、パチンコ店の駐車場で熱中症により子供が5人死んでおります。今の時期が一番危ないですね。夏はですね、さすがにちょっとやばいだろうという事ですが、この位の涼しい気候だとちょっとの間は大丈夫だろうと思って、はまりだすと時間忘れますから、気づいた時には子供が車の中で死んでしまうという痛ましい事故が5件起きております。私も3歳位の子供が2人おりまして、依存症問題に本格的に取り組まないと、こういった事はなくならないだろうと思っておりますので、あせりの気持ちがあります。最終的にはアメリカ、カナダのカジノ業界をお手本にしたいと思っています。
ギャンブル依存症というのに真剣に取り組んでいて、アメリカには全米ギャンブル依存症対策審議会というものがありまして、ヘルプライン(命の電話)というような取り組みをしております。ハーラーズ・エンターテインメントなどのカジノを運営している会社が、設立資金を出して、カウンセラーの方がいつでも電話相談に応じるという仕組みです。相談者の、まあ駆け込み寺みたいなものですね。今後この活動が広がっていってワンデーポートさんで対応しきれなくなった時には、私どもがお金を出し合ってそういう施設を築きたいというのが最終的な目標です。

福岡の時もお話させて頂きましたが、力武さんの取り組みを聞いて感激したということを言ってくださる方も中にはいらっしゃって、でも私は自分のためにやっております。パチンコのおかげでごはんを食べさせて頂いて大きくなることができて、パチンコのおかげで大学まで出させていただいて、パチンコのおかげで私は部下と、愛する家族を養っております。そのパチンコが、皆様を楽しませるよりも苦しませるほうが大きい存在になれば、私の社会的存在意義は無いわけであります。キリストは、汝を愛するように汝の隣人を愛せと言いました。私は自分を愛するために今後もこの活動を続けていきたいと思います。

ご静聴ありがとうございました。