「ワンデーポート通信」第251号 2021.7号より

今回は、ワンデーポートの開設直後からお世話になっている力武一郎さんにお話を伺いました。力武さんは、大分県でパチンコ店やボウリング場、飲食店などを経営されています。
90年代パチンコ店の駐車場で熱中症の事故が多発した際、力武さんは依存問題が大きな課題だと思ったそうです。あるとき、ホールに設置していた投稿箱に「1日で年金を取られた。こんな苦しい生活…借金もする」といった声が寄せられました。2000年頃、これは何かしなくてはいけないと思い、世界の依存対策を調べたら、カジノ経営企業ハーラーズ・エンターテイメント社が、「全米ギャンブル問題対策審議会(The National Council on Problem Gambling and Affiliated State Council)」のメンバーとして、24時間体勢の無料電話相談制度を立ち上げていたことを知ったそうです。しかし、当時はパチンコ業界内で依存問題に対しての取り組みは手つかずの状態でした。そこで、ワンデーポートに電話をされたそうです。ワンデーポート開設直後のことです。それ以来のお付き合いです。パチンコ業界が2006年に立ち上げたリカバリーサポート・ネットワークは、力武さんが声を上げたことがきっかけになっています。

力武さんから教えてもらったこと、気付いたこと

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施設長

力武さんとは、何年に一回かくらいしかお会いすることがありませんが、インタビューをお願いするのは2012年に私が大分にうかがって以来になります(その対談は株式会社セントラルカンパニー内のウェブサイトで見ることができます※1)。


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力武

私が依存問題に取り組みだしてちょうど20年経過しますが、2012年の対談を今読んでも古ぼけた感じはしないです。中村さんも私も、考え方は変わってきていますが、現場に沿ったものになってきているのかなと思います。


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施設長

私は、ワンデーポートで出会う人から学んでいて、どう関わればよいか考えています。それは力武さんも同じではないでしょうか。よく力武さんは「うちの従業員にこんな人がいる」とかおっしゃっています。人を見て仕事をされていることを実感します。ワンデーポートの初期に力武さんがセミナーに参加した頃、ワンデーポートの利用者の体験談に関心を持っていただきました。あちらこちらで開催したワンデーポートのセミナーに力武さんがいらしていただき、そのときどんな気持ちだったのか、改めてお聞きできますか?

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力武

私が依存問題に取り組むきっかけになったのは「違和感」です。前の日にパチスロで10万円くらい使った人が翌日も開店前に並んでいました。これはおかしいと思いました。駐車場の車のワイパーには消費者金融のチラシが挟まれていました。これはどう考えてもおかしい。お金を借りてきてまでパチスロをやっている。実態はひどいことになっているのではないかという「違和感」です。私たちは娯楽として楽しんでもらおうとしています。お客様を不幸にしたいとは決して思っていません。当時、お客様から、「あの人お金使いすぎて旦那さんと離婚しちゃったみたい」という話を聞いたりするわけです。一人ひとりに物語があると思っていて、その実態はどうなっているのかと思いました。そんなときにワンデーポートの人の体験談を聞いて、やっぱりそうだったのかと思いました。自分の想像を超えた世界でした。その当時のワンデーポートの考え方は「底つき」しないと回復できないというものでしたから、胸を突く衝撃がありました。


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施設長

力武さんからすると、お客様の見えないところが見えたということですが、私の立場からすると、力武さんと交流を続ける中で、ワンデーポートの中では見えないことが見えてきました。当時のワンデーポートは「依存症は正真正銘の病気です」というコピーを大きく掲げたポスターをつくっていました。力武さんはポスターのコピー部分を「パチンコは適度に楽しむ遊びです」に変えて、お店に掲示しました。正直言うとあの頃は、パチンコ店にいる大部分はワンデーポートに来る人の予備軍で、「適度に遊ぶ」という言葉は甘いと思っていました。今考えると、パチンコ店の前で頭を抱えている絵をそのままお店に掲示した力武さんの心の広さに感服しますが、当時は力武さんの立場や思いを考えることはできませんでした。しかし、その後、RSNが立ち上がり、パチンコホールでポスターを見て電話する人はワンデーポートで出会う人とは違う人たちが多いということがわかりました。否認の病気ではなく、進行性の病でもなく、自助グループや回復施設を利用しなくても自己解決している人がたくさんいることがわかりました。ワンデーポートはギャンブルに問題がある人の一部分しか見えていなかったのだと気づきました。20年前に力武さんが考えた「パチンコは適度に楽しむ遊びです」という言葉は、パチンコホール内での予防や対策にはとても適していると時間をかけて知りました。いま全国のパチンコ店で今も掲示されていることを考えると、力武さん視点、目の前の人から知ることの大切さを改めて実感します。依存問題の(地域)連携が国で課題になっていますが、私たちのような連携はあまり知られていないように思います。


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力武

目の前の人を一人ひとり見ていくと、100人いれば100人の問題があることに気がつきます。「依存症は病気である」とパターン化すると問題が見えにくくなります。人間はそれぞれ境遇も特性も違います。パターンにはめると当事者にとってつらいことになります。


 

依存問題が国の対策になって

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施設長

力武さんと出会って、10年、15年と経過し、個別の問題だと確信したときに、IRに起因して依存問題が国策になりました。制度で扱うことは、パターン化することであり、個別化とは別方向に向くわけです。力武さんと出会ったときにワンデーポートが主張していた医療機関への受診や自助グループ参加の推奨は国策になっていますが、力武さんの目からはどう見えますか。


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力武

私の依存問題の取り組みは、当事者のためになっているかどうかがすべての尺度です。「依存症は病気です」というワンパッケージでやってしまうと、当事者のためにならないです。それは20年間の活動で気づいたことです。だから取り組み方が変化してきていると思います。多くの依存問題にかかわる機関が、変化できない理由は、それぞれがそこ(依存問題)に居場所を見つけてしまったからではないかと思います。そうなると、やり方を変えることに人は抵抗します。私が大切にしているのは現場を見て違和感を感じ取ることです。一人ひとりを見ていれば、「昔はミーティングが有効だったけれど、今はミーティングしても全然変わらない人がいるな」というように、中村さんも違和感を覚えたと思います。そういうことは私の現場でも思うことです。昔は真正ギャンブラーみたいな人ばかりでした。負けたら怒りを従業員にぶつけて来る人がたくさんいました。今はホールの雰囲気はだいぶ柔らかくなっています。


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施設長

90年代前後は、一発台※2のコーナーはオジサンたちが殺気立っている雰囲気がありました。今はそうではないわけですね。


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力武

当時、真正ギャンブラーの人たちは命がけでパチンコをしているように見えました。1円パチンコ※ができてから随分雰囲気は変わりました。今は逃げ場があるので、そこがすごくいいなと思います。


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施設長

マスコミは、ひと昔前のギャンブラー像の体験談を伝えますが、今のホールにはあまりいないわけですか。個々を見ていかないと、今の当事者に必要なことが見えなくなってしまうということですね。


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力武

昔は啓発が必要だと思っていましたが、今は広く予防を発信することだと思っています。今のお客様は問題があっても深刻化する人はごく一部だからです。遊び方をよく理解したり、ライトにやりましょうと伝えることが大事だと思います。一貫して「パチンコは適度に楽しむ遊びです」と伝え続けてきた部分は変わっていません。


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施設長

力武さんは大分県のギャンブル等依存症対策推進協議会の委員ですが、会議の中では、個別性や社会の変化、予防の話はどう理解されていますか。


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力武

1回目の会議のときに、色々なことを伝えました。ぶしつけに映ったと思いますが、当事者のためにならない対策はダメだと思うのです。


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施設長

力武さんのおっしゃる当事者というのは、その会議に参加している当事者ではなく、社会の中、パチンコホールの中にいる当事者全体ですよね。私も内閣官房と横浜市の対策会議に出席していますが、当事者をもっと広くイメージしてほしいといつも感じています。


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力武

少し取り組み方が偏重している気がします。依存問題として顕在化していますが、潜在的には日本社会に横たわる大きな問題が隠されています。徐々に普遍的な活動にしたいと思っています。国の指針に対してどうやって私たちの考え方を理解してもらうのかがテーマだと思います。

仲間と出会い、孤独から解放される「ぬくもりコール」

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施設長

最近、パチンコホールの経営以外にもいろいろとやられているようですね。


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力武

高齢者向けのリハビリデイサービス事業をはじめました。発達障がいについても興味があるので、障がい者支援もやりたいと思っています。孤独や生きづらさを解消するお手伝いができないかと思います。日本は病院で亡くなる人の比率が高いです。欧米は自宅で亡くなる比率が高いです。少子高齢化が進んでいて、これからは在宅でいつまでも元気に過ごしたいという人が増えてくると思います。そのお手伝いがしたいと思い、リハビリ事業をはじめました。介護の現場の人と話をすると、特別養護老人ホームに行ったら手遅れだと言います。車椅子で全てにおいて介助が必要だからです。その前の段階の取り組みいかんで、心身ともに健康で長生きできるのだと思います。長生き寿命がイコール健康寿命にならなくてはいけないと思います。依存問題もそうだと思っていて、ひどくなる前に、「このままではいけない」と軌道修正をご本人ができることが大切だと思います。
ワンデーポートの活動を見てギャンブルにハマってしまう人は、人付き合いの苦手な人が多いということを知りました。ワンデーポートに来て仲間といろいろなことをやりますよね。ウォーキング、マラソン、ボウリングをして人とつながり、余暇の過ごし方がパチンコ以外にもできるわけです。それはすごくいいなと思います。先だって発表された都留文科大学の早野慎吾先生の調査研究に共感しました。早野先生の研究では地方都市における問題点が、余暇、娯楽の少なさ、そして孤独感だと言われていることが、私の中でワンデーポートの取り組みと繋がりました。孤立していて、寂しいと思っている段階で電話してもらい、趣味のサークルとかにつながるといいなと思います。そのお手伝いをする事業が「ぬくもりコール」です。高齢化、発達障がい、引きこもり、そして依存の問題は社会全体に共通した孤立の問題だと思います。依存問題として顕在化していることでも、日本社会の普遍的なテーマだと思います。国でどのように解決していくのかということを考えたときに、初期の段階で、軌道修正ができるような社会的システムが必要だと思います。


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施設長

問題行動に一つひとつ名前を付けて障がいを増やしたり、制度を増やしたりしていますが、人とつながることや、楽しく生きるということが抜け落ちてしまっているような気がします。「依存症は孤独の病」と言われていて、孤独から解放されるためには自助グループや回復施設とされています。たしかに、そこで孤独から解放される人もいますが、それはほんの一握りです。人間関係が苦手な人が、5人、10人というグループに入ると、より孤独感に苛まれるのがふつうです。孤独感は相対的に強まると思うので、自助グループに行ってより孤独になる人は多いと思います。それよりも、その人が好きなことの仲間、やってみたいことがあれば、その仲間との出会いをサポートするのはとても大事だと思います。仲間は1人の友人でも良いと思います。グループでなくても出会いがあれば良いと思います。ぬくもりコールのようなシステムがあれば、名前のついている「依存症対策」よりも効果があるかもしれません。


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力武

一人ひとりのペースでできることが大事だと思います。大分県で行政提案をさせていただいていますが、理想は大分県で始めてもらい、徐々に広げていくことですが、今はコロナで行政もマンパワーが割けないと言う問題もあります。


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施設長

力武さんの提案は、地域のネットワークづくりとも言えると思いますが、国の基本計画でも地域のネットワークづくりが必要とされていますが、国が考えているネットワークとは違うと思います。依存問題を超えたネットワークでないと助かる人は少ないのではないでしょうか。


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力武

私もそう思います。日本の幸福度ランキングは低いですよね。それが上がれば良いと思っています。65歳以上の人口が直に3分の1になる先進国は日本だけです。本質的な国づくりとも関係する問題だと思います。そのためには人とのつながりが必要です。ゆるくつながっていることが良い人もいれば、強くつながることが良い人もいます。人とのつながりは人間の幸せを計る上で一番大事なことだと思います。楽しみや生きがいも必要です。


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施設長

依存問題について考えていくと社会全体の課題に行きつくことは私もなんとなく感じていましたが、力武さんの話をうかがい、確信を得たような気がします。私たちの考えに共感してくれる人はいるはずですから、仲間を増やして、地域連携による依存対策を一緒に推進していきたいと思いました。今日はありがとうございました。

※1 株式会社セントラルカンパニー http://www.cp-centralpark.com/onedayport/
※2 特定の入賞口に玉が一発入れば、4,000発や5,000発など定められた玉が出るゲーム性の機種
※3 1玉1円で玉を借りて遊技するパチンコ。通常は1玉4円。